みんなで「話し合いをしましょう。」 って・・・
でも、「話し合い」って、うまくいくときばかりではありませんね。
大人の世界でもなかなか・・・・
くるみ幼稚園のクラスでも、例えば運動会前の作戦会議だったり、
ドッヂボール大会での作戦会議だったり、
子どもたちを交えた、いわゆる「話し合い」と言われるような場面が
年長クラスなどではたくさんあります。
当然、
うまくいく「話し合い」もあれば、
うまくいかない「話し合い」もあります。
「あーしたほうがいい!」
「こうしたほうがいい!!」
「それより、こっちの方法がいい!!!」
だんだん皆の声も大きくなり、
「あーっ、まとまらないーっ。」
と、担任の先生の叫び声が聞こえてきそうです。
自己主張ばかりでは、話がまとまらないのは当然ですが、
自己主張は、幼児期の発達段階に置いて重要な意味があります。
以下に研究論文の一部を引用してみましょう。
〜引用開始〜
幼児期における自己制御機能
(自己主張・自己抑制)の発達
―― 親および教師による評定の縦断データの分析を通して ――
松 永 あけみ
群馬大学教育学部教育心理学教室
(2007年 9 月 12日受理)
Development of Self-Regulation (self-assertion and
self-control) in preschool children :
Analysis of longitudinal data on Parent’s and Teacher’s evaluation
Akemi MATSUNAGA
Department of Educational Psycholgy, Faculty of Education, Gunma University
(Accept September 12, 2007)
【問 題】
保育所や幼稚園で、子どもたちは、子ども同士のかかわりの場面や集団活動の場面などにおいて、
自分の欲求通りには事が進まないさまざまな葛藤を経験する。そして、その経験を通して、自己を
抑制したり、主張したりする力を身につけていく。このように、状況に応じて、自己の情動や行動
を制御する機能は、自己制御機能と言われる。幼児期後期は、自己制御的活動を大人から導かれた
りサポートされたりすることが必要である 2歳代までとは異なり、真の内的自己制御の能力を増加
させる時期(Kopp,1988)であり、かつ、大人からも適切に情動や行動を制御することの期待が高
まる時期とされている(Bronson, 2000)。さらに、4、5歳頃の自己制御の個人差がその後の 8年間
を通して、かなり持続していることを報告している研究もある(Raffaelli.,Crockett.,& Shen.,2005)。
このように、幼児期後期は、自己制御機能の発達にとって重要な時期であると考えられる。本研究
では、幼稚園の入園から卒園までの 3年間の自己制御の発達的変化を検討する。
自己制御機能は、人が社会の中で生活していく上で、児童期以降ますます重要な自己の一側面と
なり、その研究もさまざまな角度からなされており、定義も一様ではない(Baumeister,R.E.,& Vohs,
K . D . 2 0 0 4 )。 特 に 欧 米 の 研 究 で は 、 情 動 や 行 動 な ど の 表 出 的 抑 制 や 、 注 意 や 思 考 な ど の 認 知 的 抑 制
など、主に抑制の側面に焦点があてられている。それに対して、日本では、柏木(1988)が、自己制御において「集団場面で自分の欲求や行動を抑制、制止しなければならないとき、それを抑制す
る」という自己抑制的側面だけでなく、「自分の欲求や意志を明確に持ち、これを他人や集団の前で
表現し主張する」という自己主張的側面も重要であることを指摘して以来、自己抑制と自己主張の
2側面からの研究が中心となっている。さらに、この両側面のバランスのとれた自己制御能力の発達
が、実際の向社会的行動と関連することも実証されている(関・松永,2005、伊藤・丸山・山崎,
1 9 9 9 な ど )。
〜引用終了〜
「話し合い」といった場面が成立するのは、年中組の後半くらいからでしょうか?
また、その他の自己主張のぶつかり合いは様々です。
年少さんは、おもちゃの取り合い等の個人と個人の単純な事柄が多いです。
年中組になると集団を意識し始め、周りを自分の思い通りにするために様々な
悪知恵を働かせるようになるので、少し自己主張の仕方が複雑になってきます。
意地悪になったりズルくなったように見えるのも、この年中組の時期の特徴です。
(いわゆる「幼児期のギャングエイジ」とも呼ばれています)
年少には出来ていた事をやらなくなったり、先生や親にウソをついたり、
一見すると成長が止まり、逆戻りしたように感じる事も・・・
しかし、年中組さんはこの時期に成長に欠かせない大切な時間を過ごしているのです。
まだ集団での自己主張の仕方がまだ上手ありませんから様々なトラブルが起こりますが、
その体験を基に集団内での自己抑制の心を学んで行くので、この時期に特徴的な自己主張
(一見すると意地悪く、ズルい自己表現なども)を無理に抑えてしまうと、後々になって
自己主張と自己抑制のバランスがとれなくなってしまいます。
抑える事より、充分にこの時期に自己主張の場を保証し、充分に発達させる事が重要と
される所以です。
(リスクとハザードという考え方が、トラブルコントロールを考える際、参考になります)
その課程を経て年長組になる頃には、
年少組さんのお世話をしたり、年少組さんにおもちゃを譲ったり。
「年長さんが幼稚園のリーダーだよ。」という事に、喜びや誇りを感じるようになり、
上記のような「話し合い」がうまくいかない時に、
自分の意見を主張した後に、「話し合い」をまとめる為に相手に意見を譲るような
行動も見られるようになります。
デール・カーネギーが著書の中で
「あなたがひとをに動かしたいなら、相手の話を熱烈に聞け」
と述べています。
その通りに、本来は大人の世界に於いても「話し合い」が大切なのではなく
「聞き合い、聴き合い」が大切なのです。
集団の中で、自分の要望や考えを主張する事は社会生活を営む中でとても大事です。
そして集団であれば、自分以外の人の意見を主張を聴く時間の方が、発表より
長くなるのは当然ですね。
(例えば10人の集団だと単純に 発表 1 < 9 聴く となります)
幼稚園の生活も、
個人から集団へ。
自己主張から自己抑制とのバランス(自己制御)の獲得へ。
「話し合い」から「聴き合い」へと
だんだん成長しているのですね。
頑張れ、子ども達。